「市民公益税制改革」と「新しい公共支援事業」 ~2012年はNPOが新しい公共の担い手として大きく成長していく時代の幕開けの年~:杉野信一郎さん


 昨年は、3月11日に起こった東日本大震災が文字通り日本を震撼させましたが、未曾有の被害によって現地の救援体制が容易に整わない中、全国各地から被災者支援に駆けつけた多くのNPOの活躍が注目を集めました。そうした中で、NPOの自立的な活動を促進していくための二つの大きな取組みが進められました。

<市民公益税制改革>
 一つは、市民公益税制改革と言われるものです。

 NPOの活動は、会費や寄附金、事業収入などによって賄われ、欧米では数万人、数十万人単位の会員の支援や、多額の寄附金を受けて活動している団体も少なくありませんが、日本ではNPOの活動に対する国民の理解不足や、寄附金に対する税制優遇制度が十分でないこともあって、多くの団体は、財政面で困難を抱えているのが実情です。実際、NPO法人が税制上の優遇措置を受けるためには、国税庁長官の認定を受けて、認定NPO法人となる必要がありますが、認定を受けるための要件が厳しいために、税制優遇の対象となる認定NPO法人は、NPO法人全体の1%にも満たないのが実情でした。(2011年12月16日時点で242法人)

 こうした状況を打開するため、税制優遇の恩恵に与れる認定NPO法人を大幅に増やすとともに、認定NPO法人に対する寄附を促進するための法改正が昨年6月に成立しました。

 具体的には、認定の主要な要件であるPST(パブリックサポートテスト)について、これまでの相対値基準(NPO法人の収入に占める寄附金の割合が1/5以上)に加えて絶対値基準(年間3千円以上の寄附者が100人以上)が選択制で設けられたこと、法人設立5年未満のNPO法人(法改正当初3年間は全NPO法人が対象)についてPST要件を免除する仮認定制度が導入されたことなど、認定NPO法人への道が大きく広がるとともに、寄附者に対しても、所得税の税額控除が導入され、寄附に対するインセンティブが大きくなりました。

 さらに、今年の4月から認定事務が国税庁から都道府県と政令市に移管され、認定の根拠法も税法(租税特別措置法)から特定非営利活動促進法に移されることとなりました。

 また、神奈川県では、地方自治体独自にNPO法人への寄附金に対する税制優遇措置を講ずることが出来るよう国に対して制度改正を求めるとともに、そうした制度作りに向けて独自に検討を重ねてきましたが、今回の法改正では、地方自治体が条例で個別に指定すれば認定NPO法人以外の一般のNPO法人でも当該NPO法人への寄附金について個人住民税が控除されることとなり、さらに条例で指定された法人は、認定を受ける際にPST要件が免除されるという特典が与えられ、PST要件を満たすことが困難なNPO法人にも認定NPO法人への道が大きく開かれることとなりました。

 こうした法改正を踏まえて、本県では、昨年12月に、全国に先駆けて、個人県民税の控除対象となるNPO法人への寄附金を指定する仕組みとして、指定のための基準・手続等を定める条例を制定しました。地域の課題解決のために活動するNPO法人を、その活動実績等に着目して第三者機関が審査する仕組みで、2月1日の条例施行日から指定の申し出を受け付ける予定です。1月13日と16日に、藤沢市と横浜市で、県指定NPO法人制度についての説明会を行いました。

<新しい公共支援事業>
 もう一つの取組みは、新しい公共支援事業です。

 経済社会が成熟し、個人の価値観が多様化してくると、行政による一元的な公共サービスでは社会の多様なニーズを満たすことが次第に難しくなり、民間企業と並んでNPOなどの民間セクターの役割が重要になってきます。
 そこで、官民の役割分担を見直し、これまで行政が独占的に担ってきた「公共」を、これからは市民・事業者・行政の協働によって実現していく必要があります。これが「新しい公共」の考え方です。

 ところが、新しい公共の重要な担い手として期待されるNPOは、資金面や組織面などが企業などとは違って脆弱なため、自立的な活動を行うための基盤強化が必要です。

 そこで、寄附税制改革の取組みによって、市民がNPOに寄附しやすい環境を作るとともに、新しい公共支援事業として、平成23年度から24年度の2ヶ年にわたって、NPOの活動を市民によく知ってもらうための環境づくりや、新しい公共の場づくりのためのモデル事業などの取組みを進めています。

 このように、東日本大震災に揺れた2011年は、日本のNPOにとって、法人制度が始まって以来最大の変革の年となりましたが、振り返れば、1998年3月に制定された特定非営利活動促進法、いわゆるNPO法も、1995年に起こった阪神淡路大震災の際に、多くのボランタリー団体が救援活動に活躍し、社会の注目を集めたことがきっかけとなって出来たものであり、NPOと震災の不思議な縁を感じずにはおれません。

 県内のNPOの皆さんには、是非、この新たに整備された制度を存分に活用していただいて、2012年が、NPOが行政や民間企業と並び立つ新しい公共の担い手として大きく成長していく時代の幕開けの年となることを期待しています。

<プロフィール>

杉野 信一郎(すぎの しんいちろう)
神奈川県県民局県民活動部NPO協働推進課長
1982年神奈川県入庁。水資源環境保全税創設に携わった際には、流域環境保全等に関わる数多くの市民団体と意見交換を重ねる。2010年4月より現職。NPOとの協働の推進、新しい公共支援事業、NPOへの寄附促進のための条例指定の仕組みづくりなどに取り組む。内閣府の「新しい公共」推進会議情報開示・発信基盤に関するワーキンググループ構成員を務めた(2010年12月~2011年3月)。

<関連リンク>
▽ボランタリー活動の推進に向けた税制度等の環境整備(寄附税制)(神奈川県ホームページ)
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f7763/

▽「NPO法人に対する寄附促進の仕組みに関する規則案及び審査基準案」の概要(神奈川県ホームページ)
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f7763/p404880.html

▽新しい公共支援事業について(神奈川県ホームページ)
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f7782/

▽指定NPO法人制度説明会(神奈川県ホームページ)
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f7763/p400674.html

▽市民公益税制(寄附税制など) (財務省ホームページ)
http://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei10/06/index.htm