性の多様性に寄り添い、孤立のない社会を目指す「SHIP」

LGBTという言葉を聞いたことがありますか。これは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字を取った略称で、セクシュアルマイノリティ(性的少数者)の代表的な呼称として使用されている言葉です。セクシュアルマイノリティの当事者は少数派であることで、さまざまな生きづらさを抱えています。今、当事者に必要なことは何なのか。LGBT支援の現状を知るため、神奈川県で活動をしている認定NPO法人SHIPを訪問し、実際の声を聞きました。

SHIPは、横浜市神奈川区にあるマンションの一室にあります。横浜駅から歩いて10分ほどで着くその場所は、にぎやかな繁華街から少し距離を置いたところに位置しています。玄関を開けると、代表の星野慎二さんが出迎えてくれました。日頃、交流スペースとして利用される室内は落ち着いた雰囲気で、LGBTの連帯を象徴するレインボーフラッグが飾られています。

 

ロールモデルのない不安定な思春期

当事者が直面している問題とは何なのか。星野さんは、現在のLGBTの人たちが抱える一番の問題は「肯定的な情報を得ることができず孤立してしまい、自己肯定感が低くなること」だと言います。

中学校の教科書には「ある一定の年齢がきたら異性を好きになり、結婚して子供を持って幸せな家庭を作る」とありますが、同性愛のことは書かれていません。テレビに出てくるゲイのタレントは、女装して「オネエ言葉」を使って、笑いの対象として扱われています。こういった社会状況のなかで、思春期という体や心の変化に戸惑う時期に「適切なロールモデルが身近にいないことが問題。自分に自信を持てずに育つことが、周囲から孤立していくことにつながっている」と、星野さんは指摘します。

孤立という問題|自殺未遂リスクは約6倍

また、高校生くらいになると、違った問題が見えてきます。最近は、インターネットで出会いの機会が得られるようになり、当事者同士がつながりやすくなった一方、異性間と同じ問題が起きている現実があります。例えば、女子中高生が大人の男性から誘惑があって望まない性交渉を持つことや援助交際などの問題がありますが、同じことはゲイの男の子にも起きているのです。恋愛をしたいと思っても、出会った大人の側はセックス目的で、一回限りで終わってしまう。その繰り返しで自己肯定感が低くなって、場合によっては、「精神的に不調をきたすケースも少なくない」と、星野さんは問題視しています。

孤立によって、具体的にどんな問題が生じているのでしょうか。若者の自殺未遂について調べた調査(※1)のなかに、男性においては「異性愛でない人の自殺未遂リスクは異性愛者の約6倍」というデータがあり、自殺対策基本法に基づく「自殺予防対策大綱」(※2)のなかでも性的マイノリティへの支援の充実がうたわれています。星野さんは、「やはり、自殺予防の側面からも孤立を予防する対策が必要」と強調しました。

※1「わが国における都会の若者の自殺未遂経験割合とその関連要因に関する研究ー大阪の繁華街での該当調査の結果からー(宝塚大学看護学部教授日高康晴)」
http://www.health-issue.jp/suicide/

※2自殺総合対策大綱(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000131022.html

嘘をついて生きることの辛さ

インタビューのなかで星野さんは「やはり、自分自身のセクシュアリティに嘘をつくというのは辛い」と心情を吐露しました。「20代、30代の頃は『結婚しないのか』と問われ、ちゃんと答えられずに辛かった」と、自身の経験談も教えてくれました。自治体と協働した仕事をするようになった現在においても「仕事について聞かれて『LGBT支援だ』とちゃんと答えられずにいる。親にも言っていないし、兄弟にも言っていない。久しぶりに集まるときに、全て嘘をつかないといけない」と、穏やかな語り口からは想像できない、厳しい現実を語りました。

 

SHIPの取り組み|安全な出会いの場

SHIPでは、セクシュアリティや年齢別に集まれる定期イベントの開催や電話相談・対面カウンセリングなどを行なっています。定期的に開催されるイベントは、男性が好きな男性・女性が好きな女性・体の性別に違和感のある人・10代限定・40代以上などのほか、セクシュアルマイノリティの家族が参加できる「かぞくの会」も実施しています。

自分と同じような人と話をする大切さがある一方、インターネットで出会うことには危険や心配があります。SHIPのイベントは、当事者に安全な出会いの場を提供することを目指しています。また、個別の電話相談「SHIP・ほっとライン(セクシュアリティに関する電話相談)」や、「SHIPカウンセリング(臨床心理士による対面カウンセリング)」といった健康支援活動を行なっています。

苦い経験が契機に

さらにSHIPは、自治体から委託を受けた事業も実施しています。具体的には、横浜市の「FriendSHIPよこはま」「よこはまLGBT相談」、神奈川県の「かながわにじいろトーク」「かながわSOGI派遣相談」といったものがあります。「SOGI」とは、「性的指向:好きになる性別」と「性自認:自分がどんな性別だと思うか」という認識のことで、LGBTよりも、より多様性を表すことができる概念として、徐々に広まっています。また、自治体から依頼された講演・研修等にも積極的に応じています。星野さんは、神奈川県教育委員会が企画した研修活動を例にあげ、「研修に参加した先生に人事異動があって、また次の学校で研修をやりたいと言ってくれる。異動があることで、段々と広がっていくのは良い傾向にある」と現状を評価していました。LGBTを支援する団体が限られる現状においては、こうした神奈川県や横浜市との協働事業を特に重要視しています。

「昔、性感染症をテーマにした授業をするために学校を訪れた際『同性愛の話だけはしないでください』と言われた。学校の中でタブー視されているのは問題だと感じて、教育委員会に申し入れた。それがきっかけになり、県との協働事業が始まることになった」と、苦い経験が活動の契機になったことを振り返っていました。

今後の展開について|多様性に寄り添う

今後の活動について星野さんは「当事者が自ら声を上げることが重要だが、自分の経験しか話ができない面もある。総合的な視点で支援できる人材を育成する必要がある」と考えています。性的マイノリティといってもいろいろな人がいて、みんな違う問題を抱えています。特に「精神障害を持つ性的マイノリティの交流の在り方を模索し、遊びなどを通した気軽な交流の場などを設けていきたい」と話しています。

星野さんは、「セクシュアリティのことは、いきなり気がつくものではない」「身近な人が寄り添えることが、一番大切」ということを挙げ、「人それぞれ、みんな違っていてよい。多様性のある社会が、一番大切。LGBTに対する理解だけではなくて、いろいろな多様性について私自身、今後も学んでいきたい」と結びました。

寄付・活動についてのお問い合わせ

認定NPO法人 SHIP

〒221-0834
横浜市神奈川区台町7番地2 ハイツ横浜713号室
TEL/FAX:045-306-6769
URL:http://www.ship-web.com

宇佐美勇祐

1988年、横浜生まれ横浜育ち。福祉系の大学を卒業後、相談援助業務や児童の生活支援等の業務に従事してきました。市民としてだけでなく、社会福祉士・ソーシャルワーカーとしての視点を活かしながら取材をしたいと思っています。