人間の影響を取りのぞいて“海本来の回復力”をサポート

「認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー」

日本で唯一、ウミガメの保護と海洋環境保全に取り組む認定NPO法人である「エバーラスティング・ネイチャー」(Everlasting Nature of Asia:略称ELNA/以降「エルナ」と表記)は、国内を含むアジア地域での海洋生物の調査研究と保全活動を行っている。

なぜ今、ウミガメを守らなければならないのだろうか?海外での調査や保全に年間100日以上取り組んでいる、横浜事業所長の井ノ口栄美さんに、活動理由やウミガメと私たちの生活の関係についてお話を聞いた。

ウミガメを守ることと私たちのくらし|海の生態系を保つウミガメ

水族館の人気者、ウミガメ。しかし、ウミガメが海洋生態系で重要な役割を担っていることは、あまり知られていない。「活動をしていると『カメより人が優先では?』と問われることがあります。しかし、ウミガメやカメが生きられる自然環境を守ることは、私たちの生活にも深く関係があります。」と井ノ口さんは語る。

エルナの活動を、絶滅危惧種で日本にも関係の深い「タイマイ」を例に紹介していこう。

横浜事業所長の井ノ口栄美さん世界自然保護基金によると、タイマイは国際自然保護連合・種の保存委員会(IUCN/SSC)のウミガメ専門家グループによって、最も絶滅の恐れの高い「近絶滅種(CR)」に指定されている。(IUCN,2000)

日本では「べっ甲」として工芸品に使われる美しい甲羅を持つウミガメで、サンゴ礁でよく見られる海綿(カイメン)を主食としている。海綿は毒性があるため、餌にしている生物は少ない。

もしタイマイが絶滅してしまうと、サンゴ礁に海綿が増え続け、多様な生物の営みを支える造礁サンゴの成長に、多大な影響をもたらすといわれている。

ひとつの生物が絶滅することによる環境への影響は計り知れない。ある海域の生態バランスが崩れ、海洋環境が変わってしまえば海洋資源を得て生業とする人々の生活も打撃を受ける。「海洋資源に関わる世界的な経済活動、ひいては私たちの生活にも大きな影響が出ることは明らかです。」井ノ口さんは生態系のつながりについて強調した。

エルナ活動地以外からタイマイの子ガメ産まれないインドネシア

主な活動地域と活動内容インドネシア・ジャワ海域では、タイマイの約8割が20世紀中にいなくなっている。(Suganuma et al. 1999)その原因の1つに、日本も大きく関係していた。

日本は、ワシントン条約でタイマイの輸出入が禁止される1994年以前(正確には1992年まで)べっ甲材としてタイマイの甲羅を大量に輸入し「乱獲を増長する原因を作った」とされている。

アジア最大のタイマイ繁殖地であるインドネシアのジャワ海で、産卵を保護しているのはエルナのみ。活動をやめれば「ジャワ海のタイマイは絶滅してしまう。1匹でも多くの子ガメを海に戻すのが、私たちの使命と感じています」と強い決意をのぞかせた。

絶滅危惧種であるタイマイだが、インドネシアでは食文化や環境保全への理解の違いから、エルナの活動にもかかわらず、タイマイ卵の盗掘が後を絶たない。

それでも希望の兆しはある。タイマイの成熟年数は7年8カ月と言われる。保護を開始して8年目から、3カ所の観測地で急激な個体数増加がみられた。「エルナが保護活動をする前には、根こそぎ採取されていた状態から、卵の保護によって孵化した子ガメが産卵するまでに成長してきた証です。」と嬉しそうに井ノ口さんは笑った。

海が持つ本来の回復力を信じて|できるだけ「人為的な要素」を取り除く

「エルナのミッションは『自然が持つ本来の回復力をサポートすること』です。人為的な影響を取り除くことによって、崩れてしまった自然のバランスをできる限り元の状態に戻して、“海ほんらいの力”を引き出すようにしています。」

太平洋最大のオサガメ繁殖地であるインドネシア・西パプア州では、2000年から保全調査を開始。「卵の移植や、人間が関わり過ぎる保護では産卵数は増えない」という認識に基づき、産卵を阻害する人為的要因の裏付けを進めている。

人為的要因のタイプは2つに分かれるという。1つは、人間が持ち込んだ家畜ブタが野生化して、オサガメの卵を食べてしまうなど、人間の生活が影響を与えているもの。

もう一つは「保護のために」と善意で実践したことが、意図しない結果として表れているもの。例えば、個体識別のために産卵中のオサガメに標識を装着すると、産卵をやめてしまうケースや、夜間にライトをつけて産卵調査をしたり、波打ち際を歩いたりすることで、オサガメの上陸を妨げていることなどが挙げられている。

オサガメの繁殖地域からこれらの人為的要因をできるだけ排除するよう、調査による影響を最低限に抑える努力をしている。以前は行っていた標識放流だが、悪影響がある可能性が出てきたので標識放流は止めて、個体識別用に写真を1枚撮影するのみに変更した。自らの調査方法を改善しながら、他の団体にも保護・調査手法の見直しを促すため、裏付け調査を続けている。

時間がかかっても自然の回復力を信じて待つ

エルナでは、海外での活動に加え、国内ではウミガメの死因調査や自然保護に関する、啓蒙活動を積極的に行っている。

来島者へのレクチャー活動

2016年度活動報告書によると、日本国内では関東沿岸および宮城県仙台市沿岸周辺から、132匹の死亡漂着の報告が寄せられている。横浜事業所では、報告された漂着ウミガメのうち、解剖可能な状態にある113匹に対して剖検を行った。

漂着ウミガメの死因については、様々な要因が考えられているが、すべての死因を特定するまでに至っていない。しかし、マグロはえ縄漁や定置網など漁業による混獲や、釣り針誤飲による死亡例を挙げ、「人間の活動による影響は大きい。引き続き調査が必要です。」と井ノ口さんは話した。

小笠原事業所では、アオウミガメのモニタリング調査を中心に、産卵時期の海岸パトロールや地域住民へ向けた情報提供、来島者へのレクチャー活動などを行っている。

また、エルナの活動をより深く知ってもらう場として毎年開催する「アクションミーティング」のほか、ウミガメについて初心者でも楽しく学べる「かめベン」を定期的に開催している。(最新情報は団体HPを参照)

井ノ口さんとエルナによる保全活動は、活動の成果が見えてくるまで時間がかかる。活動を続けるための原動力として、「なによりも、市民の皆さんによる支援の力が大きい。」と井ノ口さんは言う。「どんな小さなサポートでも、皆さんからの理解と協力があると、とても心強く感じます」と、支援を呼びかけている。

【寄付・活動についての問合せ】

エルナでは賛助会員制度のほか、ウミガメ保護島のオーナー募集や、ウミガメグッズの販売などを行っている。支援について詳しくは下記HPへ。

個人の皆さまへ

団体情報

認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー

神奈川県横浜市神奈川区西神奈川3-17-8-4F
TEL: 045-432-2358
FAX: 045-432-2638
Email: info@elna.or.jp
URL: https://www.elna.or.jp/

水島綾子プロフィール

横浜生まれ、横須賀育ち。幼少期より「海(磯)」に親しむ。スポーツクラブのインストラクターや、IT企業の販促担当など幅広い職種を経験後、船舶代理店で英文事務職に従事。40代で独立して姉妹2人の手作り菓子通販店を営む。2017年より「海」をテーマに神奈川県の市民レポーター活動を始める。