マイ・ホーム・タウンと呼べる街づくり・特定非営利活動法人 さくら茶屋にししば

茶飲み友達と集える場所がここにある

郊外型ニュータウンの高齢化

急速な少子高齢化とそれに伴う人口減少は、2025年以降、それまで影響が少ないといわれていた大都市にも波及すると言われている。横浜市の郊外地域も例外ではなく、高度経済成長期に爆発的に増えた人口の受け皿として供給された「ニュータウン開発」(戸建て団地)が、開発から40~50年を迎え、施設の老朽化や荒廃・住民の高齢化が顕著になりつつある。

京浜急行・金沢文庫駅からほど近い、小高い丘に造成された西柴団地(横浜市金沢区西柴)は1969年から開発が始まり、高級住宅地として人気を博したという。しかし、およそ1800世帯が住むこの地区も近年は高齢化が進行し、人口が減少してきている。同様に賑わいがあった商店街はシャッター化が進み、若い人たちは街を離れ、戻ってこない。人通りの少ない、寂しい一角になってしまったという。

このような状況に問題意識を持っていた岡本溢子さん(特定非営利活動法人 さくら茶屋にししば理事長)は、「地域の人たちが気軽に集える場所があれば、いきいきとした街に変えられる」と考えていた。

思いが強ければ風が吹く。そういうタイミングで横浜市の「まち普請」制度を知り、この制度を利用すれば「みんなが集まれる場ができる!」と確信し、仲間10人に声をかけ「西柴団地を愛する会」を2009年に結成した。1年がかりの厳しい審査を熱意で乗り越え、500万円の資金を得ることができた。

この資金で商店街の空き店舗を改装し、コミュニティカフェ「さくら茶屋」がオープンしたのは2010年5月。さらに「西柴団地を愛する会」の事業の幅をさらに広げるため、2011年9月、会員62人を集め「特定非営利活動法人 さくら茶屋にししば」が設立された。
現在は、ファミリー向け多目的カフェ「さくらカフェ」、高齢者向け多目的サロン「ほっとサロン」の計3カ所を開設し、活動の幅を広げている。

特定非営利活動法人 さくら茶屋にししば 岡本溢子理事長

特定非営利活動法人 さくら茶屋にししば 岡本溢子理事長

「さくら茶屋」の活動

さくら茶屋の「売り」は「おいしい食事と温かいふれあい」と岡本さんは胸を張る。その自慢の食事は、主婦歴30~40年の地域のベテラン主婦たちが、ボランティアで曜日ごと4~5人のチームを組んで調理と配膳を行っている。

曜日替わりで、おふくろの味のランチが600円で食べられる。提供する料理はどれも「とてもおいしい」という評判で、連日ランチタイムは満席だそうだ。ボランティアだが時給50円を支払っている。「100円くらいは支払いたいんですが、資金的に50円が精いっぱいなんです」と岡本さんは語る。

メニューは、月曜日「オムライス」火曜日「あなご天丼」水曜日「松花堂弁当」木曜日「中華ランチ」金曜日「穴子ちらし(第1・第3)つけ麺(第2)ビーフン(第4)」土曜日「季節のご飯料理」となっており、栄養バランスを考えた献立になっている。
手作りケーキと珈琲・紅茶セット(350円)もあり、地域住民が気軽に立ち寄れる雰囲気を作り出している。

土曜日「季節のご飯料理」600円(税込) ※珈琲100円(税込)

土曜日「季節のご飯料理」600円(税込) ※珈琲100円(税込)

飲食サービス以外では、七夕・ハロウィンなど様々な季節のイベントを企画し、商店街活性化につなげている。さらに子供たちの居場所づくりとして「放課後のスペース開放」「朝の学童保育」、高齢者の居場所づくりとして「介護者の集い」「認知症の勉強会」「街歩き」「健康体操」など数多くの事業に取り組んでいる。

これらは地域住民の声に耳を傾け、要望を生かした事業として形になっており、NPO法人と地域住民の密接な関係性がこれらを実現させたと言える。常時80人の正会員が、それぞれのテーマごとの活動に参加していることも、多様化する活動を支えている。

また、これらの活動を評価した企業からの支援も積極的に受けている。
2011年には医薬品製造販売のエーザイ株式会社からの資金支援により痴呆症の啓蒙活動の一環で「学習会」「講演会」を開催した。

現在は2年間限定だが米国系医療用医薬品の製造販売を手がける日本MSD合同会社からCSR活動の一環として月額64,800円の活動資金を支援してもらっている。

企業と協働し「大家族食堂」プロジェクトを実現

入店しやすい雰囲気で、エントランスの植栽が美しい。

入店しやすい雰囲気で、エントランスの植栽が美しい。

このプロジェクトは、日本MSD合同会社の担当者から「何か新しい取り組みを提案してもらえませんか?」という相談があったことがきっかけだったという。

岡本理事長がいつか実現させたいと考えていた「大家族食堂プロジェクト」を提案したところ、企業側の賛同を得られ、スターター資金として30万円を支援してもらった。

この資金は、2016年7月から計3回の実験的な「プレ大家族食堂」の運営資金に活用された。のべ222人の来店者は、未就学児と保護者・小学生・高校生・高齢者など幅広い年代で構成され、同年9月からの本格稼働・運営に目途が立った。

本格稼働後は、食事料金収入と地域住民からの食材の現物寄付で運営していく方針だ。

「こども食堂」を展開するNPO法人は、2016年5月末時点で319カ所あり(朝日新聞調べ)、全国的に広がりを見せているが、当初から高齢者を含めた「大家族食堂」というコンセプトで展開している活動は珍しい。
子どもでも高齢者でも「1人で食事する」のは寂しい。現在、横浜市の世帯構成は単身世帯の割合が最も多い。単独世帯は588,068世帯、35.9%。その割合は年々増え続けており、およそ2.8世帯に1つが1人暮らしとなっている。(「2015年国勢調査人口等基本集計結果 横浜市の概要」)

「子供でも大人でも、みんなで食べるとおいしい。『みんなでお夕飯』が合い言葉です」と岡本さん。「大家族食堂」に集まってくる人たちの間には、家庭環境や経済的な事情などの違いは確かにあるだろう、けれども「さくら食堂」が掲げるそのシンプルで力強い言葉「みんなでお夕飯」、つまり「みんなで食べることの喜びと安心感」さえあれば、それでいいのだと思えてくる。

もう1点、このコミュニティで重要なことは「子供たちと高齢者たちの対話が、それぞれにとって大きな力になることだ」という。高齢者は子供たちのあふれんばかりのエネルギーをもらい元気になる。そして、子供たちは高齢者に見守られ、その話から学校や家族から学べないことを知る機会を与えられる。

大家族食堂「さくら食堂」は、毎月第2金曜日と第4水曜日の月2回開催されている。料金は、大人300円、小中高生100円、未就学児無料。基本メニューはカレーライス。お時間がある方は是非訪れてみてはいかがだろうか。
(取材・文:菊地保宏)

寄附・活動についてのお問合せ

特定非営利活動法人 さくら茶屋にししば特定非営利活動法人 さくら茶屋にししば
〒236-0017 横浜市金沢区西柴3-17-6
TEL/FAX 045-516-8560
E-mail  sakuraya@c3-net.ne.jp
HP  http://sakurachaya.moo.jp

菊地保宏プロフィール

1965年生まれ。北海道出身。横浜市在住。大学卒業後、中堅広告代理店に入社。
20代で広告代理店を4回転職、30代で1社に落ち着き、40代で独立。
様々なメジャーアーティストのCD発売プロモーションを数多く手掛ける。
2016年より神奈川県の市民レポーターとしてNPO法人の取材活動を始める。